奥泉光 ランキング!

奥泉光 『吾輩は猫である』殺人事件 (新潮文庫)

本郷から上海に来るまでの記憶がない、我輩。事件の謎を解明しようと、たちが知恵をしぼります。ホームズとワトソン君(ホームズの飼いとワトソン君の飼い)が登場するからには、ホームズが謎を解くのかと思ったら、そうではない。船の中で、苦沙弥先生殺害の謎を人間たちが話しているのを、たちが聞くだけ。その答えも、ミステリーの王道とは程遠い気がします。現実離れしすぎて、どこか釈然としませんでした。我輩が、記憶を辿ろうと奮闘する姿は可愛かったです。それを読む価値はあるかも。 『吾輩は猫である』殺人事件 (新潮文庫) 関連情報

奥泉光 東京自叙伝

「どちらにしたところで東京は、と申しますか、日本はいずれ天変地異とともに滅び去るわけだから、あまり深刻に考えても仕方がありません。」(第四章、245ページより)奥泉光といえばなんといっても冴え渡るのは流麗なる筆致と眩惑するようなメタフィクションの構造。しかし作中で惑うのはあくまで登場人物(=個人)であり、ともすれば顕微鏡で拡大された自意識のようなものじゃないか――そんな誹りを受ければ成る程仰る通りなわけで、スケールという点で見れば幾分見劣りするじゃん、というのが一般の評価かもしれない。まあ、クワコーシリーズだけで評価されれば「なんだ胡乱な、なんちゃってミステリーか」と判断されるかもしれないが。しかし本作の主人公は東京という地霊(のようなもの)であり、遡るは縄文弥生、大陸が大和と呼ばれていた頃にまで遡る『東京』の一代自叙伝だ。地霊がついた人間は要領がよく即物的で、驚きのスピードで悪行に手を染める。そしてその結果知り合いが死んだとしてもまったく心を痛めず、「マア、そういう運命だったんでしょう」「その方が世の中のためになったのです」などと嘯き、平気の平左で夜遊びに繰り出したりする。さながら試練と必然性のないピカレスクロマンのようでもあり、テンポよく悪事と成功、立身出世を繰り返していく。だがそれも混乱と闘争の世だから許されたことであり、つまり平和と錯綜の21世紀では……とまあ、時代時代の事件の連続、まるで日本の近代史の総決算のようで、読書中はただひたすらにオモシロイ。幸福な時間が続くことだろう。鼠、漱石、軍国主義、天皇、竹槍、ゲイ、などなど過去の作品でも使われてきた単語や知識が、今作の中でもちらほらと散見される。しかしメインではない、あくまで添え物のパセリみたいなものだ。この作品は総合小説であり、メタフィクション小説でもあるが、今回そのターゲットなっているのは我々読者だ。奥泉光は隙あらば我々を鼠人間にしようとしている――というか、読み終えてから、「自分、ネズミ人間じゃないッス。真人間ッス!」と胸を張って宣言できる人間がどれだけいるだろう?彼、東京はところどころでこう宣言している。「歴史には残っちゃいませんけど、それは私です」と。なるほど東京、というか日本という国家は「なるようにしかならない」の思想とともに発展してきたのかもしれない。本書の最後は、彼の抗弁、というよりか予言で終わっている。もし「なるようにしかならない」が蔓延し続ければ、『東京』の読みどおり、最後にはネズミが踊り狂う世の中が待っているかもしれない。それが笑い飛ばせない、不気味なリアリティを持っているのだから、まったく奥泉光は恐ろしい。自分の知る範囲じゃ2014年で出た中で一番の、鳥肌ものの小説です。 東京自叙伝 関連情報

奥泉光 ノヴァーリスの引用/滝 (創元推理文庫)

誰もが『虚無への供物』や『匣の中の失楽』を想起するであろうアンチ・ミステリ「ノヴァーリスの引用」はまるで戦後の思想史を総括するような知的興奮と、推理と討論の応酬の果てに知らず知らずのうち曖昧模糊とした境地に読者を連れ去る幻想が交錯する。『蠅の王』や三島由紀夫の作品を思わせる設定の「滝」は少年たちのイニシエーションの道程に仕組まれた陰謀、その果ての異常心理が生み出す息詰まるサスペンスとやがて迎える宿命的結末が恐怖をもたらす。両作とも長編並みのヴォリュームに感じる濃密な内容であり、巧みな物語の興趣と鋭利な思索性が相反することなく織り込まれた傑作。 ノヴァーリスの引用/滝 (創元推理文庫) 関連情報




Loading...


ここを友達に教える