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芸能界引退か 歌屋 都はるみ (文春文庫)

有田芳生氏の描く「都はるみ」像は、スターの実像を浮かび上がらせたものでした。筆者自身が本書の原稿を書くにあたってずっと彼女の歌唱を流しながら執筆していたというエピソードで分かるような愛情に満ちたものです。冷静な観察者の目を持ちながら、1ファンとしての温かい気持ちがその底流にありました。本人にとって都合の良い伝記でもなく、彼女の出自について取り扱いの難しい記載もあり、ある種の憶測を呼ぶものだと思いますが、真実を描くという姿勢に徹しているので、その時代背景とともに理解できるものでした。八百屋や魚屋と同様、自らを「歌屋」に例えた都はるみの半生は歌なしにはたどれません。幼いころのエピソードからして歌に浸っています。普通のおばさんになりたい、と引退しましたが、歌の世界からは結局離れることが出来ませんでした。愛する人との出会いと別れを繰り返し、その私生活は決して恵まれたとは言えないかもしれませんが、それを乗り越えて再び舞台に立つからこそ、歌屋なのでしょう。1976年に「北の宿から」で日本レコード大賞とFNS歌謡祭最優秀グランプリなどを受賞した経緯や、1980年に『大阪しぐれ』で日本レコード大賞最優秀歌唱賞を受賞したエピソードなども詳しく書かれています。引退前のラスト・ステージとなった白歌合戦での舞台裏も臨場感たっぷりに伝わってきました。素顔に迫るとは言いますが、そのためには時間をかけた丁寧で綿密な取材が欠かせません。本人へのアプローチは当然として、関係者への取材もしっかりとなされているからこそ、都はるみ自身がこの本をコンサート会場で宣伝してくれている、という話につながります。それだけの価値が詰まっていますし、愛情が感じられました。 歌屋 都はるみ (文春文庫) 関連情報




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