動脈列島 [DVD]

新幹線が絡んだ犯罪映画と言えば、真っ先に思い浮かぶのが東映が総力を結集して製作した「新幹線大爆破」であろう。
今作は時をほぼ同じくして東宝が製作した新幹線ネタのサスペンス作品。決して「新幹線大爆破」のようなパニック・スペクタクル作品ではない。
新幹線を脱線させるぞと当時の国鉄を脅迫する犯人とそれを阻止しようとする警察との丁々発止の駆け引きをサスペンスフルに描いている。
洋画ファンには「新幹線大爆破」が「ポセイドン・アドベンチャー」で「動脈列島」が「ジャガーノート」と言えば解って貰えるかもしれない。
両作品とも当時のオールスターを起用し、かなり金をかけた大作であり、娯楽性豊かな非常に面白い作品であるのに興行的には大コケ。
「新幹線大爆破」はその後仏蘭西などヨーロッパでヒットした為、ソフト化は何度かされたが、今作は今回初のDVD化。目出度い事です。
ちなみに「動脈列島」と言うタイトルがやや意味不明と思われるが、原作を読めばピーンときます。

研修医の秋山宏（近藤正臣）は恋人の薬剤師、君原知子（関根恵子）とともに新幹線騒音が原因で精神に異常をきたした老婆の最期を看取る。
遂にブチ切れた秋山は国鉄に対し復讐を決意。薬剤師を良い事に知子に病院からニトログリセリンを盗みださせ、自前で時限爆弾を作成。
何時に間にやら秋山は新幹線のトイレに警告状とともに時限装置の働かない爆弾を仕掛ける。
脅迫状には、国鉄に対する4つの騒音対策の要求と、要求を受け入れなければ10日以内に新幹線を破壊させると書かれていた。
警察庁は犯罪科学捜査研究所所長であるエリート中のエリート滝川保（田宮二郎）をリーダーに任命し、
5人の新幹線沿線の県警に所属する捜査官と捜査本部を設ける。
サスペンス作品ですので、ここから先のストーリーについては触れません。

田宮二郎が常に冷静沈着（と言うか本当にやる気があるのかと思われる節あり）である一方、常時テンション高いのが警察庁長官役の小沢栄太郎。
この2人の対比が何故か笑いを誘う。
しかも滝川が流石エリート中のエリートと言うか、見事なまでの洞察力で犯人をいとも簡単に特定してしまう。
原作には所謂犯罪プロファイリングを駆使しての捜査手法がじっくりと書き込まれていただけに、やや拍子抜けする。

「新幹線大爆破」と比較して、どうしても見劣りするのが犯人のキャラクター。
新幹線騒音に苦しむ沿線住民の為、正義感に燃えて犯行に及ぶのは良いのだが、その為に愛する女性（関根恵子）を利用するのは如何なものか。
しかもその女性が警察に連行され尋問を受けている一方で、別の女（梶芽衣子）を誑し込み（誑し込まれた？）、その女性をまた目的達成の為利用する。
関根恵子は黙秘を貫く事で、恋人を裏切らないのに、秋山は目標達成の為とは言え簡単に他の女に気を許してしまう。
役者が近藤正臣だからと言って、こうも女にだらしのない犯人だと作品にも軽い印象を与えてしまう。
「新幹線大爆破」の健さんは別れた女房にすら迷惑をかけなかったもんなぁ。

結論としてはスリリングな娯楽性では「新幹線大爆破」に軍配は上がりますが、その他の点では今作も中々面白い作品である事に間違いありません。