オリンポスの果実
かつて熱烈に恋した人への手紙という形でストーリーが展開していく。恋の熱に浮かされた青年の心理描写が見事で、主人公の頼りない性格とあいまって、周りの人間からいじめられたり、からかわれたりする場面では読んでいてつらくなってくるほどだった。ここに記されたような青年期の恋の病は、若い頃に同じような経験がある人ならば大いに共感できると思う。実際に作者はオリンピックの代表選手として活躍したそうであるが、小説の主な舞台が洋上の船というところも、青春の象徴のような碧い海が若者たちを浮き立たせて、この小説の大きな魅力になっていると思う。時々熱烈な恋心と反転して現れる片思いの相手を汚く罵る逆説的表現が新鮮だった。
随分昔に書かれた作品(1940年 昭和15年)であるのだが、文章が生き生きとしていて、時にコミカルな箇所もあり、古臭い感じを受けない。一途で、不器用で、危うく、そして純粋な青春の恋。最後の一言がとても切ないが、これこそ青春の恋なのか。
オリンポスの果実 (新潮文庫)
extra-large a-spacing-top-medium a-text-center comment-load-error a-hidden">